逃げるが勝ち

「逃げるが勝ち」ということわざがあります。「相手に勝ちを譲って無駄な争いを避けたほうが、最終的には勝利を手にするのだ」という意味ですが、家づくりにおいても、「逃げる」ことは非常に重要なことなのです。

家相は、人間が健康で安全に暮らしていくための知恵も根底にはあります。ですから自然災害に備えた家、防犯面を考慮した家も、家相上よい家だと私は考えています。

しかし、家は必ずしも私たち人間を守ってくれるばかりではありません。時には私たちを不幸へ導くこともあるのです。先の新宿歌舞伎町の火災のように、建物の構造が一瞬にして多くの人命を奪ってしまうこともあります。避難路が確保されていたら、もっと出口があったら、尊い命が犠牲にならずに済んだはずです。

私はいつも、「災害や犯罪から身を守るためには逃げることも大事、いざという時に逃げやすい家をつくることも大事なのだ」とお話をしています。地震や台風に負けない頑丈な家であっても、セキュリティ装置が網羅された家であっても、いざという時の「逃げ道」がなければ何にもなりません。非難路の確保は重要なのです。避難路の確保というと、大げさな工事や多額の費用が必要?などと思われるかもしれませんが、そうではありません。ちょっとした工夫や、日々の生活の中での心構えなどで十分対応できるのです。

たとえばマンションなどの場合は、万が一の際の避難路があらかじめ作られています。ベランダにある隣の家との仕切り板や避難用ハッチです。隣家との仕切り板は、簡単に蹴破ることができる構造になっており、避難用ハッチからは、はしごで下の階に降りられるようになっています。万が一火災が起きたり、強盗に入られたりした時、隣家や下の階へ逃げることができるのです。ただ、この避難路の存在を意外に知らない人が多いのか、知ってはいてもつい置いてしまうのか、隣家との仕切り板の前やハッチの上に、物置などを置いているお宅がよくあります。これは家相上大凶です。いざという時に逃げられないばかりか、隣の人の逃げ道までなくしてしまうことにもなりうるのです。



一方、戸建住宅の場合は、「間取りやインテリアを決めるだけで手いっぱい、いざという時の避難路までなかなか頭がまわらない」という方がほとんどだと思います。そこで、戸建住宅の場合の「避難のポイント」をお教えしましょう。それは、「階段を使わなくても逃げられる方法」を考えておくことです。

階段は、2階から1階への避難路でもあります。万が一火災が起きたとして、2階で出火して階下へ逃げられる場合はよいですが、1階で出火した場合、階段は煙突のごとく煙を2階へと上げてしまいます。就寝時など家族が2階にいる場合には、煙突と化した階段からの避難は非常に困難です。煙による一酸化炭素中毒は、ほんの数秒という短時間でも、身動きできなくなるといわれています。昔と違って現代では、燃焼時に有毒ガスを発生させる住宅建材や家具が多いため、なおさらいち早い避難が必要です。

では、階段を使わなくても避難ができるようにするには、どうすればいいのでしょう。私はいつもこうアドバイスしています。まず、家の周りの庭に、万が一の場合に飛び降りることができそうな場所を見つけておくことです。そしてその場所には、コンクリートやレンガといった固いものは敷かず、芝生を張ったり常緑樹を植えたりして、飛び降りる際の「クッション」をつくっておくのです。もちろん、布団などを落として、その上に飛び降りるようにすればより安全でしょう。緊急時の避難のための住宅設備が、今の日本の家づくりにはまだまだ不足しているように思えてなりません。



次に、家族で避難訓練をすることです。階段から逃げることができなくなった時は、どこからどうやって外に逃げるか、家族で話し合い、その避難ルートをたどってみることです。我が家では、子供たちが小さい頃は、年に一度は家族で緊急時の避難ミーティングを行ってきました。いざ逃げようという時にパニックにならないためにも、大事なことだと思います。また、火災そのものを起こさないための工夫として、オール電化の家にしたり、できる限り有毒ガスを発生しないような建材や部材を選択することも、家づくりにおいては重要な項目です。

現代では火災だけでなく、強盗などの凶悪な犯罪からも逃れなければなりません。昔から、「玄関以外に出入り口が多くある家は、お金が逃げていく凶相」と言われますが、凶悪な犯罪が多い昨今では、「玄関以外に出入り口がある家は、いざという時に逃げられる吉相」と言うべきなのかもしれません。

命さえあれば、人間は必ず幸せになれるのですから。


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